第332回 レディースの時代か 論〜山田太一の「おやじの背中」が託したもの
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ホットロード 全4巻完結(マーガレットコミックス) [マーケットプレイス コミックセット]
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映画「ホットロード」がヒットしている。つまり今は「レディース」の時代ということができる。レディースとは何か。これは、はぐれものの女子生徒らが徒党を組んだ暴走族の女版=レディースのことで、「男女交際厳禁」というアイドル顔負けの鉄の掟があることはあまりにも有名。アイドルは記者会見で済むだろう。しかしレディースは狭い階層社会の中チクりチクられ暴露たら本気!(マジ!)で身体的ヤキを入れられる過激な集団なのだ。
と。いうことではなく。
TBS日曜劇場「おやじの背中」
第7話「よろしくな。息子」脚本・山田太一
http://www.tbs.co.jp/oyajinosenaka/staff/#page-top
高村(渡辺謙)は戸川さん(余貴美子)とお見合いをする。断られるも「とても残念でならない」と、戸川さんの息子祐介(東出昌大)の働くコンビニ(スリーエフ)を訪れる。ひょんなことから口をきいたふたりが、日を置いて再会する。
高村は祐介にヨーカンを振る舞う。
祐介「厚切り〜!」
ヨーカンの厚さで盛り上がるのだ。「ふぞろいの林檎たち」のお母ちゃん(佐々木すみ江)を彷彿とさせる、そんなやりとりの後、高村は自分が靴職人であることを告げる。
祐介「ハイヒールとか?」
高村「ハイヒールじゃないぃっ!!メンズだ!メンズ!」
(感情が出たのか声を荒げて)
祐介「あ、はい」
(嵐の桜井君のような恐縮した演技で)
高村「いや、おれがー、悪い‥」
(語尾が宙吊りの、極めて山田太一的ニュアンスで)
続けて「普通、靴の職人といえば女もんだと思うだろう。ファッションも商売もレディースの世の中だ。しかし、メンズの世界も結構奥深いんだ」
仕事の話になると饒舌に。「シャツの店」(1986)の鶴田浩二的職人気質。
「ホットロード」の時代からは想像できない。今やレディースは、はぐれものどころではない。大手を振って世を闊歩する、社会の中心とされている。
また、このシーンでは、若者にとってはフツーの、なんでもないことを買いかぶる大人の姿が。「いいじゃないか。勘違いで。」結局気持ちはわからない。自分の解釈で、都合が良いようにとればいい。
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(ふぞろいの林檎たちII 1985 より)
室田日出男「世の中にはなあ。まだ大人の世界ってのがあるんだよ!ガキが遊び気分で水商売して、触っただのなんだの騒ぐんじゃねえ!」
とはいえ、今作の快心のポイントは、渡辺謙の素晴らしい演技。杉浦直樹が乗り移ったかのような徹底した道化ぶり。
仮に「おもしろ」設定のキャラがおもしろい演技をする、例えば舞台やバラエティと「笑い」が本業の柴田理恵が、「ドラマ」で笑わせる役だったらどうだろう。そのママでつるつるの表現である(ちなみに今作で柴田理恵はコンビニ強盗役を好演している)。
そういった笑いとは全く異質の、渡辺謙の真面目過ぎる、ベタ過ぎる真っ直ぐな人間からにじみ出る、愛すべき可笑しさ!!
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戸川さんが高村の工房を訪れる対面シーン。
戸川さんが振り向いてくれた!と思い込んだルンルン気分の渡辺謙は神がかっている。
なんだかんだ常識的な理由をつけて高村と距離をとっていた戸川さんが、禁を解き、くっついてしまう。
戸川さん「わたし 男の人 とっても とっても 久しぶり」
抱き合うふたり。
カタルシスと可笑しみ。思わず笑いがこみ上げるハイライトである。
その勢いでベッドインしたふたりと翌朝の息子の狼狽を含め、SEX DRUG (山田太一といえば酒。戸川さんの酒飲みシーンあり)、ROCK’N ROLL(つかみどころのない女性の心情の機微を描くレディース時代へのアンチテーゼ)。
- 作者: 山田太一
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最後に、「託す」というテーマについて。
祐介「まだ途中」発言。まだ途中の若者と、時間のない中年。
山田太一は近著「空也上人がいた」をうけたインタビューで、「託す」行為についてコメントしている。
老人が40代介護士へ恋心を抱く。しかし将来的にも機能的にも現実的に成就し難い。だから、20代の若者へその恋を託す、引き合わせて見届けようとする欲深いジジイである。実際、老人の遺体の前で、託されたふたりは結ばれるのだった。
今作「おやじの背中」では、お見合いの世話役として両者を引き合わせる戸川さんの上司(笹野高史)は、戸川さんへの恋心を渡辺謙に託す。
高村は祐介に靴職人の技術(=メンズの世界)を託す。
そもそもタイトルが「よろしくな。息子」と託している。
最後の最後に視聴率。
ゲーセワなネタが働いたのか働かないのか、シリーズ第二位という好成績を残し、ほっとしている。